すずき設備社長の鈴木だ。
石油給湯器を使っているユーザーの中には、セミ貯湯式の給湯器を使用している人も多い。地下水(井戸水)ユーザーなら貯湯式一択だろう。使い勝手の良さは直圧式に及ばないが、セミ貯湯式にはセミ貯湯式の良さがある。
そこで今回は「セミ貯湯式の給湯器のメリット・デメリット」について書いていくから、セミ貯湯式の給湯器を買い替えようと考えている場合は参考にしてくれ。
セミ貯湯式の石油給湯器の特徴
セミ貯湯式石油給湯器とは?
セミ貯湯式、あるいは略して貯湯式給湯器、貯湯式ボイラーなんて言われているが、簡単に言えば「中に熱いお湯を貯めておくタイプの給湯器」である。イメージとしては「やかんでお湯を沸かす」ようなイメージだ。
電源を入れると勝手に火が付き、給湯器内に貯められている水をお湯にして貯めておく。電源が入っているうちは、給湯器内のお湯の温度が設定温度を下回ったら再度燃焼動作に入るという仕組みだ。
リモコンの電源を入れている限りは機器内のお湯の温度が下がれば点火動作に入るため、家を留守にするときは電源を切るユーザーが多い。しかしその場合は帰宅する頃には完全に機器内のお湯が冷めてしまい、帰宅してすぐに電源を入れてもお湯が使えるようになるまではしばらく待つ必要があるだろう。
もう一つのタイプは直圧式
ちなみに貯湯式じゃない給湯器は「直圧式」と呼ばれるもので、こっちはお湯を貯めておく仕組みではなく、蛇口を開けてお湯が必要になった瞬間に水をお湯にするという瞬発力のある機種だ。
ガス給湯器の場合はこっちが主流だし、給湯器全体のシェア的にも8:2とか9:1くらいで直圧式の方が売れているんじゃないかと思う。セミ貯湯式から直圧式に変更するユーザーは少なくないが、その逆はほとんどいない。
石油給湯器だけで見れば、弊社の感覚で言えば「7:3で直圧式石油給湯器の方が人気」というイメージだな。
セミ貯湯式の給湯器のメリット
- 直圧式給湯器に比べて本体価格が安い
- 直圧式給湯器に比べて長持ちしやすい
- 水質があまり良くない地域でも導入しやすい
本体購入価格や施工費用が安い
石油給湯器を買うと決めたら、次に悩むポイントは「直圧式かセミ貯湯式か」だと思う。セミ貯湯式は、直圧式に比べると商品価格が安く設定されているため、両者を比べると金額としてはかなり安い(燃焼能力などにもよるが、同じ能力ならセミ貯湯式の方が大幅に安い)。
たまに給湯器の広告やチラシ等で、有り得ないくらい安い金額が書かれている給湯器が載っていることがあるが、そこには給湯専用機だったりセミ貯湯式の給湯器が掲載されている可能性もあるため注意が必要だ。
素人が直圧式とセミ貯湯タイプを外観から見抜くのは難しいが、多くの場合で「直圧式/セミ貯湯式」などと小さく書かれているはずだからそれを参考にして欲しい。もしくはその広告元に聞いてみるのもいいだろう。
直圧式に比べて遥かに長持ちする
石油給湯器はガス給湯器と比べると長持ちしない印象がある。しかしセミ貯湯式の給湯器に関しては、直圧式の給湯器と比べると長持ちする傾向が強い。むしろガス給湯器に引けを取らないくらいである。
理由としては構造の単純なガンタイプバーナーを採用していることが強い。バーナーに不具合が生じたとしても、取り返しがつかなくなるほど故障してしまうというパターンがあまりないからだ。仮に燃焼系のエラーを出したとしても部品交換ではなく、バーナー掃除で改善するような軽い症状であることが多い。
直圧式だとバーナーを交換しなければならないような故障が多く、特に壁掛けの直圧式給湯器で採用されている気化式バーナーだと、ほぼ調整が不可能な構造となっている。そのため直圧式の場合はバーナーが壊れたら修理費用も高くなるため、買い替えを検討するユーザーも出てくるだろう。
しかし掃除で直る可能性が期待できるセミ貯湯式の場合、ノズル掃除で直せるとなれば多くの人は修理を選択するのではないかと思う。セミ貯湯式は直圧式の給湯器と比べると致命的なダメージを受けにくいとも言えるな。
水漏れに強い
田舎に住んでいるという人の中には、地下水や井戸水を使っている人がいるのではないだろうか。そのような人は、しばしば給湯器からの水漏れに悩まされることが多い。
セミ貯湯式の給湯器は内部のパイプの一部がステンレスで作られているため、ほぼ銅パイプで構成されている直圧式の給湯器に比べると圧倒的に水漏れに強い。しかもセミ貯湯式給湯器のラインナップの中には、井戸水に完全対応した給湯器も登場している。
これは「今までの機種では銅パイプを使用していた部分にも、ステンレスパイプを採用した」というもので、従来のセミ貯湯式と比べて更に水漏れに強くなったと言っていい。もし「地下水とセミ貯湯式の給湯器を使っているけど、それでも水漏れが多くて困っている」という人がいたら、地下水対応のセミ貯湯式給湯器に替えてみてはどうだろうか。
ただし今まで銅だった部分は水漏れに強くなったと言えるが、今までが既に腐食に強いステンレスだった部分が更に強くなったということはないため、過信すると痛い目に遭うかもしれない。
セミ貯湯式の給湯器/ボイラーのデメリット
- 水圧がかなり弱い
- ドンピシャの温度を出湯出来ない等、使い勝手が悪い
- 壁掛けタイプの直圧式給湯器に比べて燃焼音がうるさい
水圧がかなり弱い
セミ貯湯式の給湯器はその特性上、減圧弁・安全弁を必要とする。これが無ければ熱交換器が急激な圧力変化に耐えられず、時には変形したり破裂してしまうこともあるため、絶対に取り付けなければならない。
減圧弁という字を読めば大抵の人が気付くだろうが、この部品の役割は水圧を弱めることだ。つまりセミ貯湯式の給湯器を使っている家庭では、水を全開にした時の水圧よりもお湯を全開にした時の水圧が圧倒的に弱い。
「水圧の弱いシャワーは嫌だ!」という人もいるだろうから、そういう人はできれば直圧式の給湯器を選択した方が無難だろう。
使い勝手が悪い
セミ貯湯式の給湯器の多くは、40℃なら40℃というように細かい温度を設定することができない。多くのセミ貯湯式給湯器では1~7までの数字でアバウトに温度設定を行うのだが、7ともなると火傷するくらい熱いお湯になる。通常はこれに水を混ぜて使用するのが最もメジャーな方法だ。
レバータイプで簡単にお湯と水が混ぜられるタイプの水栓を使っているなら、そんなに不便は感じないだろうが、昔ながらのハンドルタイプで貯湯タイプの給湯器を使っている家庭では、温度調整の手間がかかって仕方がない。
物によってはシャワーや蛇口にも、温度調整できるサーモが付いているケースも少なくない。しかしこいつは割と故障率が高く、便利ではあるものの故障が多いという面では微妙だ。そう考えたら40℃と設定したら40℃ぴったりのお湯を出してくれる直圧式の方が便利だと言わざるを得ないだろう。
音がうるさい
基本的にはガス給湯器の方が静かで、石油給湯器は音がうるさい傾向が強い。石油給湯器でも壁掛けタイプであればガス化バーナーを採用しており、燃焼音が小さくなるように設計されている。
残念ながら床置きタイプの給湯器はまだまだ燃焼音が大きいと言わざるを得ないのだが、貯湯式の給湯器には壁掛けタイプが存在しない。つまり貯湯式の給湯器は燃焼音・動作音がうるさいのだ。これはどうしようもないだろう。
これまでセミ貯湯式の給湯器を使っていて子供が生まれたのをきっかけに直圧式に交換したユーザーがいるのだが、そのユーザーは「赤ちゃんが起きないほど音が小さくて満足だ」と言っていた。
隣近所にうるさい人が住んでいるという場合、給湯器の燃焼音に対して文句を言われたという近所トラブルもたまに聞く。そのようなトラブルに発展した現場を見てみると、大抵がセミ貯湯式の給湯器かエネファームだ。
もしそのような環境に住んでいるという場合は、貯湯式給湯器から別の機種に変更することも検討してみて欲しい。
貯湯式給湯器に安全弁が必要な理由
貯湯式給湯器に必要な「安全弁」とは?
安全弁は基本的には減圧弁とセットで使用されることが多い設備のことで、役割は圧力を逃がすための弁だ。水は熱されると膨張するから、膨張した分を逃がしてやらないと缶体が破裂してしまう。
それを防ぐために安全弁があり、膨張した水(お湯)を逃がしているというわけだ。ちなみにこの安全弁は、給湯器への入水の圧力を下げる減圧弁とセットになっていることが多い。
安全弁はその性質から「逃し弁」と呼ばれることもあるぞ。
安全弁は貯湯式石油給湯器には必ず必要
正確には直圧タイプにも安全弁は必要だし搭載もされているのだが、それを言い出すとややこしいから本記事では割愛する。基本的に安全弁が必要なのは貯湯タイプであり、貯湯タイプは石油給湯器にしかない。
貯湯タイプというのは給湯器本体の中にドラム缶のようなものが入っていて、そこに水を貯め込んでいる。もちろん中に入っているのは水だったりお湯だったりするわけだが、水の状態から80度くらいのお湯に加熱するときのことを考えてみてほしい。
もし膨張したお湯の逃げ道が無ければドラム缶は破裂してしまうだろう。それが給湯器の中で起こってしまったら…間違いなく熱交換器の交換になるし、漏れた水が他の部品にかかったら電装部品も故障してしまう可能性が高い。
ちなみに熱交換器は作業料だけで20000円くらいかかるから、安全弁や減圧弁の取り付け忘れには注意しなくてはならない(とは言っても注意するのはユーザーではない)。
安全弁は内蔵されている機種とそうでない機種がある
もし「DIYで貯湯ボイラーを取り付けようと考えている」というユーザーは注意すべきことがある。それは「安全弁は内蔵されているものとそうでないものがある」ということだ。
もし内蔵されていない機種を選定したのであれば、外付けの減圧弁と安全弁を用意する必要がある。これを忘れてしまうと、新品を取り付けて2日と持たないうちに缶体が破裂してしまうだろう。
当然ながらこれは施工ミスに該当するから、メーカーの製品保証は適用されない。給湯器を交換する際に、費用の安さだけに飛びついてレベルの低い施工業者に依頼すると、安全弁が必要な給湯器に安全弁を取り付け忘れて給湯器が故障するという事例もある。
うっかりミスなら施工業者が修理費用を負担することになるだろうが、中には知らぬ存ぜぬを通す施工業者もいるから、給湯器交換をする際は金額以外の部分も見て検討することをおすすめしたい。
貯湯式給湯器のリモコンに「H」の文字が表示されたら…
7の温度で火傷をしないような配慮
普段から7にして使用しているという場合において、ふとしたタイミングで温度を下げたとしよう。ここでは7から4に変更したと仮定する。
するとリモコンの温度表示は4になっているにも関わらず、実際に出てくるお湯は7の温度という現象になってしまうのだ(7で作られたお湯がまだ給湯器の中に残っているため)。
これは時間が経てば少しずつ冷めていくため、いずれは4の温度になるわけだが…それを知らずにお湯を使ってしまうと火傷に繋がる恐れがある。というわけで貯湯式給湯器では実際の設定温度よりも高いお湯が出るというケースでは、設定温度の横に「H」と表示することになっている。
直圧式の給湯器ならこういうことは起こらないから、このあたりが貯湯式の不便な部分と言っていいだろう。
Hが出る時は、今まで使っていた温度から下げた時
Hはあくまで火傷防止のための注意喚起の意味であり、これが表示される場合は「今まで使っていた温度を下げた時」である。2を1に下げてHが表示されるということは無かったように思うが、いずれにしても「知らずに使ってしまった時に火傷の恐れがあるような温度差」では間違いなく表示されるはずだ。
直圧式の給湯器であれば蛇口を開けた時に初めてお湯を作るため、設定温度のお湯を一気に作ることが可能である。一方で貯湯式の場合は常に設定温度のお湯を機械の中に作っておいて、蛇口を開けた時にそれを出湯するというシステムだ。
ついさっきまで7にしていたのであれば給湯器の中に入っているのは7の温度のお湯であり、その状態で設定温度を4にしたところで4の温度のお湯は出てこない。
4のお湯(40℃ちょっと)が出てくると思っていたのに、実際に出てきたのが7の温度だと事故につながる恐れがあるため、4の横にHを表示している。ちなみにこの表示は時間経過によって給湯器内のお湯の温度が設定温度通りになれば消える。
最後に
水質に関してはどうしようもないが、上水道を使用しているのであれば直圧式の給湯器を選ぶのが無難だ。セミ貯湯式→直圧式ならまだいいが、その逆ともなると時代を逆行しているようで不便さを感じるだろう。
確かにセミ貯湯式の給湯器の方が金額的には安いが、直圧式の給湯器でも安く施工してくれる業者はいくらでもある。ぜひ、参考にしてくれ。